yoruの記録

雑記ブログに見せかけてほとんどサッカー(Liverpool,Dortmund)の話。

【マッチレビュー】トランジションの作り方〜リバプール×クリスタル・パレス 21/22プレミアリーグ第5節〜

こんばんは、yoruです。

ちょっと久しぶりのリバプールのレビュー。ごゆっくりどうぞ。

f:id:yoru__li:20210921230523j:plain

 

 

はじめに

f:id:yoru__li:20210922215021j:plain

スタメンはこちら

今回は時間ごとに追っていくようなレビューというよりは今季のリバプールってどうやって戦ってんだよ、っていうようなことを書いていこうかと。

というのもこのクリスタルパレス戦で見せたリバプールのサッカーが一昨シーズンにやってたようなものに近いもので、かつ昨シーズンは怪我人で満足なサッカーができなかったことを考えると、これ本当は昨シーズンにやりたかったサッカーなのかなと。すると昨季あれだけ欲しがったチアゴの役割もなんとなく見えたような気がしたので、記事にして残しておこうと思った次第で書いております。

 

トランジションの作り方

 ざっくり結論から書くと、リバプールはあえて相手のボール保持の時間を認めてるんじゃないかという話。

 今季の攻撃の特徴はバーンリー戦のレビューでも書いたが、サラー、アーノルド、エリオット(ヘンダーソン)の三人で行う旋回攻撃だ。この試合でも見られたが、ヘンダーソンが何度もハーフレーンから大外の裏にランニングを仕掛け、それに相手のSBがつられると、大外のサラーのカットインするコースが開いたり、アーノルドがハーフレーンに上がってきて中にクロスを上げる時間とスペースが生まれる。もちろんサラーは内側でもフィジカルを生かしてプレーができるし、ヘンダーソン、アーノルドも外からでも十分な精度のクロスを上げることができる。だからこそ相手はこの3人の誰がどこから攻撃してくるのか分かりづらく、マークが難しい。

f:id:yoru__li:20210824195801j:plain

今季の右サイドの攻撃

yoru-li.hatenablog.jp

 

 んでライバルチームの話になるが、マンチェスターシティはこんな旋回攻撃(ポジションを入れ替えながら対応する人を変え守備を難しくする攻撃)を左右どちらでも、ほとんどピッチ全体で行う。ベルナルドはその旋回でどこでもできる申し子だ。そして相手を押し込み続け、奪われても立つ位置さえ合っていればすぐに奪い返せる。逆に攻撃側はボールを奪ってもポジションが崩れていて前進できないことが多い。そうして相手のボール保持の時間を認めず、自分たちのボール保持の時間をできるだけ長くしてずっと相手に迫り続ける。それがマンチェスターシティのサッカーだ。ざっくり説明すると。

 

 んで、リバプールにこのサッカーはできないのかと言われれば、できると思うし、現に去年まである程度やってたと思う。もちろんリバプールの第一目標は素早くゴールに迫ることと、そして素早く前線からボールを奪い返すことだが、相手がボールを持つことを嫌がって(どうせ奪われてしまうから)引いてカウンター狙いになった時、相手のブロックを崩すためにポジションを入れ替えながら攻撃することがある。特に去年まではワイナルドゥム、マネ、ロバートソンの左サイドでのトライアングルはよく見られ、またアーノルドが内側に入ることは少なかったものの、ヘンダーソンが外側に走りサラーと背後のアーノルドにスペースと時間を与えることはあった。さらにその左右どちらにもフィルミーノが絡んでいき、ワンタッチパスでアレンジを加えるなどして相手のブロックを崩すというのがリバプールのボール保持時のやり方であった。

f:id:yoru__li:20210925123011j:plain

ただ、逆に言えばそれでしか崩せなかった。ベルナルドのようにヘンダーソンが外側に開いてもドリブルで仕掛けていけるわけでもないし、カンセロのようにアーノルドがライン間でボールを捌けるわけでもない。期待の両SBからのクロスだって最終ラインとGKの間にある程度スペースがあるから、身長が低いリバプールのFWでもタイミングさえあえば決めることが出来ていたが、相手がスペースを消してクロスを待ち受けてしまうと途端に決まらなくなってしまう。

結果、フィルミーノやサラー、マネがワンタッチパスでうっめぇ!!ってなるようなスーパープレイが出ないと崩せないことが多く、ほとんどは攻めすぎた結果ポジションバランスを崩し、カウンターを食らってしまっていた。

 

 

そこで最初の一文に戻るが、今期のリバプールはあえて相手のボール保持の時間を認めてるんじゃないかと。

ボールを持って攻撃できるようになったと言っても、リバプールがやっぱり1番得意なのはスピードのある前線を活かしたカウンターな訳で、そのためには相手にある程度攻めてきてもらう必要がある。だから前線からのプレスは控えめ。相手に「このプレス強度なら運べることね?」って思わせて、ロングボールではなく地上戦で戦ってきてくれるのを狙っているんだと思う。
んでそこで待ち受けるのはプレミア屈指のフィルター能力をもつファビーニョとファンダイクを中心としたDF陣であり、ある程度自陣に引き込んだ上でボールを絡め取り、得意のカウンターに持ち込む。

現にクリスタル・パレス戦でも前線からのプレスを見られる回数は以前より減ったと思うし、特にこの試合、右SBにミルナーが入ったことでフィルター能力は向上。相手陣内で奪い返すというよりは自陣まで戻った上で詰まらせて取るというシーンが目立った。

f:id:yoru__li:20210925123015j:plain

また、ファンダイク、マティプ、そしてこの試合でデビューとなったコナテは全員空中線が強く、またゴメスは裏のカバースピードが速いし、このCB陣がロングボールを許さず、ボールを運ぶことを強制させてるということもあるんだろうなと思ったり。

 

さらに、ここまで"あえて"という表現を使って、さもリバプールが本気出してプレスすればすぐ奪い返せるみたいな感じを出しているが、むしろ世界中のサッカーチームの保持のレベルが上がっているという事も大いに関係してると思われる。そこまで戦力の充実してない下位クラブだってボール保持のノウハウを自分のものにし、セットした状況(ゴールキックとか)からならプレスを躱して前進していけるのだ。

リバプールのプレスの代表的な形である「WGがSBを切りながらCBまでプレスをかけ、さらにフィルミーノがアンカーを切る」というプレスだって、何年か前にチェルシーがやったようなアンカーの隣にIHを1人降ろして瞬間的に2ボランチにするとか、GKからWGの頭を越してSBに浮き球で出すとか、対策がテンプレ化してしまい以前より前線からの激しいプレスの効果が落ちているというのも、今回書いている引き込むという策の大きな理由の一つだろう。というか対策がテンプレ化しているのにそのさらに対策となるプレスの形を仕込まないところが今回こう思ったひとつの理由である。

 

チアゴ・アルカンタラというピース

 ということで、今季はあえて引き込んでトランジションの機会を増やし、リバプールが得意な場面を増やす戦い方をしています。ということではない。この策は2年前の19/20シーズンあたりから見られていた策だ。中盤には身を粉にして働くことができるワイナルドゥムとヘンダーソンを置き、前線からのプレスをしつつもその強さを調整し、相手を受け入れる時には受け入れカウンターを刺す。というシーンが見られ、この年は悲願のプレミアリーグ優勝を飾っている。

そして今季、そのリバプールサッカーのアイコンのようなプレーをしていたワイナルドゥムはいなくなり、左サイドのトライアングルによる旋回はあまり見られなくなった。だから当然、右サイドだけで崩すのはいくらヘンダーソン、サラー、アーノルドの能力が高くても無理がある場面が存在する。相手が右サイドに守備を固めれば詰まってしまうのだ。その詰まった場面を解決するために起用されているのが、ワイナルドゥムがやっていた左IHに入っているチアゴだと思うのだ。

アゴは当然ワイナルドゥムよりフィジカル、プレス強度が強いわけではなく、ボックス内に入ってもヘディングの脅威という点ではワイナルドゥムに劣る。しかしチアゴにはずば抜けたパスセンスとその時間を作るセンスがある。その能力をクロップは優勝した次のシーズンのチームに求めたんじゃないかと。

f:id:yoru__li:20210925123025j:plain

これはクリスタルパレス戦のチアゴのパスマップ。ボールのマーク→線の先がパスの方向だ。目立つのはセンターサークル付近からボックスの脇に送る斜めのパス。短いパスは少なく、左右に長いパスを叩いているということがわかる。んで、左サイドではヘンダーソンが高い位置を取るからリバプールはチアゴファビーニョの2ボランチみたいな形になる時があるのだが、それにしてはチアゴを経由してパスを運ぼうと言う意識はそこまで感じられない。むしろこの試合ではミルナーファビーニョヘンダーソンの右サイドからボールを運ぶ場面が多く、それでサラーも絡ませてゴールまでまず運んでみるというのが第一優先のように見えた。で、上にも書いたが当然詰まる場面が発生する。その時にボールを預かるのがセンターサークル付近で待つチアゴだ。

アゴの役割はこの右サイドで詰まった場面から左に振るか、もしくは右のハーフレーンに落として突っ込ませるか選択すること。左に降った場合はマネとツィミカスの二人でもうとりあえず突破を狙う。ここにチアゴがワイナルドゥムのようにサポートのランをすることはない。つまり、右が詰まってボールがチアゴに入った時点で、左右どちらにボールを振るにせよ突っ込むことはほぼ確定。ボールの保持に拘らず、とにかくいったん攻撃を完結させようという意識があるんではないかと。それで攻撃が完結できるのはチアゴ個人のミドルレンジのパス精度と、味方が突っ込む時間を一人で作れるチアゴのスキルによるところが大きい。

f:id:yoru__li:20210925123019j:plain

 つまりチアゴ起用の狙いはボール保持の安定化とかブロックを崩すためのライン間に刺すパスとかではなくて、むしろトランジションを作るという目的(相手にボールを持ってもらうこと)と出来る限り少ないリソースでそれなりに精度の高い攻撃を完結させるためなのではないかなと感じる。あえてゴチャっとした状況を作るというか、不確定な事象を起こすというか。だから左右どちらもトライアングルを作ってポジションを移動するより、サラーとアーノルドというチームが誇る個人最大火力を活かすための右のトライアングルだけ作り、左はマネとロバートソン(ツィミカス)に一任。昨季ボール運びに、ライン間でのプレーに、フィニッシュにと役割が多かったマネも今季は役割がすっきりしているというか、だいぶ健康的な仕事量と内容になっているんじゃないかな。

また、フィルミーノよりジョタが選ばれがちなのもこの影響かなと思ったり。(もちろん怪我の影響もある。)フィルミーノがいると良くも悪くも全体が繋がる。ボール保持がどこでも安定して、左右どちらからでも人数がそれなりに揃い、それなりに攻撃できる。ただ、そうすると上にも書いた通り相手が引き込んでしまい、結局自陣のスペースが大きく空いてカウンターをくらってしまう。ただ、チアゴがいてそこまで相手陣内に人を送り込まない(手数を少なくして攻める)場合、相手ボックス内にもスペースは残っているからそれこそスペースに顔を出すのがうまいジョタが活きる。身長が低いのにボックス内でピョーンって垂直跳びして決まるヘディングシュートも相手が準備しきれない内にクロスを送れているから決まる。

昨季のジョタとチアゴの加入はそんな意図があったのではないかと個人的には思う。あくまで仮説だけど。

 

 

プロレスみたいだね。

 ということで今のところ今季のリバプールはこんな意識で戦っているんじゃないかなという説でした。副官であるラインダースのチームになっているんだなぁと。んで当然、サッカーは不確定なスポーツなので相手の攻撃をあえて受けると言っても受けきれない時だってあります。それこそルカクはある程度抑えていたのにコーナーキックからなんかすごいシュートが決まってしまって、あと10人になって引かれ続けたチェルシー戦みたいな。そんな試合もあるでしょう。でもだからこそクロップがセットプレーに注力してるというのもうなずける。セットプレーからの失点を抑え、得点を重ねられたらそれこそクリスタルパレス戦みたいな勝ち方ができますから。流れの中から得点ができなくても狙った形でコーナーを取って決まりゃいいんですよ。勝てばいい。

ただ、CLミラン戦みたいに前線からプレスをかけ続ける試合もあります。どっちが本当の姿なのか、というか相手によってプレスの強度を決めてるんだろうけどその変数がなんなのかはもう少し見てみないとわかりません。メンバーによっても大きく変わるだろうし。

 相手の攻撃を受けた上で、殴りかえす。そんなプロレスみたいなサッカーと、あのアンフィールドというリングと熱狂的なファンがいるのは偶然ではないと思ったり。

 

 

それでは。

Twitterなどフォローよろしくお願いします。

SNS等で感想をつぶやき、拡散してくれるとありがたいです。